2011年5月1日日曜日

財政健全化には、経済成長が必要だ―粗債務残高/名目GDP 比率の試算

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「国債残高(粗債務残高) / 名目GDP比率」「プライマリーバランス」について、
財務省資料 (財務省「平成23年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」 ) に従って試算した。

試算の結果は、
  • 名目経済成長率が高いほど、早い段階でプライマリーバランスが黒字化する
  • 名目経済成長率が高いほど、早い段階で国債残高/名目GDP比率は速く低下していく
というものである。
以上の事柄と、現在が不況であることを踏まえれば、
  • 財政健全化のためには、名目経済成長率を高めるべきである
  • 名目経済成長率を萎縮させるような手段(復興増税等)での財源調達は望ましくない
  • 国債発行等、経済を萎縮させない手段で財源調達をするべきである


「国債残高(粗債務残高) / 名目GDP比率」「プライマリーバランス」について、
財務省資料 (財務省「平成23年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」 ) に従って試算してみました。

図1.国債残高(粗債務残高) / 名目GDP比率 (税収弾性値=1.1の時)

図2.プライマリーバランス (税収弾性値=1.1の時)

上の図1.および図2.は、財務省の試算に沿って「国債残高/名目GDP比率」と「プライマリーバランス(税収 - 利払費を除く支出)」とを計算し、グラフに表したものです。

上のグラフを見ると、名目経済成長率が高いほど、早い段階で「プライマリーバランス」は黒字化し、「国債残高/GDP比率」は低下しています。

上の試算では、税収弾性値(名目GDPが1%成長したとき、税収が何%増加するかの値。:[名目GDP成長率の変化量]/[税収増加率の変化量])を1.1としているため、名目経済成長率が大きいほど、プライマリーバランスが短期的に悪化するような結果になっています。
実は、「税収弾性値が1.1」というのは、現状と合っていません。これは1970年代ごろの数値なのです。こちらのページ(急上昇している税収弾性値)にもある通り、1997年以降、税収弾性値は上昇しているのです。このページでは1997年以降の税収弾性値を「2.4」と推計しています。

税収弾性値を2.4として試算した結果が以下のグラフです。
図3.国債残高(粗債務残高) / 名目GDP比率 (税収弾性値=2.4の時)

図4.プライマリーバランス (税収弾性値=2.4の時)

税収弾性値を1.1とした時よりも、早い段階で「国債残高/名目GDP比率」「プライマリーバランス」共に改善しています。それは成長率が高いほど顕著になっています。名目経済成長率が高いほど、早い段階で「プライマリーバランス」は黒字化し、「国債残高/名目GDP比率」が低下しているのは、最初の試算と同じです。一方、プライマリーバランスの短期的な悪化はみられません

以上の試算から言えることは、
  • 名目経済成長率が高いほど、早い段階でプライマリーバランスが黒字化する
  • 名目経済成長率が高いほど、早い段階で粗債務残高/名目GDP比率は速く低下していく
というものです。
以上の事柄と、現在が不況であることを踏まえれば、
  • 財政健全化のためには、名目経済成長率を高めるべきである
  • 名目経済成長率を萎縮させるような手段(復興増税等)での財源調達は望ましくない
  • 国債発行等、経済を萎縮させない手段で財源調達をするべきである
と言うことができます。

なんだ当たり前のことだ、と感じる方が大多数であると思います。ですが、その当たり前のことがなされていないのが現状です。

実際日本で不景気時に消費税を増税した結果、税収が下がったという事態が発生しています。1996年当時、当時の日本のGDPデフレータ変化率は-0.6%とデフレであり、かつ名目GDP成長率は年2%と、好況とは言えない状態でした。その1997年、消費税の増税がなされました。結果、消費税増税の翌年(1998)の名目GDP成長率は-2.1%となり、税収面でも、財務省のWEBサイトにもある通り、増税したのに税収は下がったのです。

当時の首相、故橋本龍太郎氏は、2001年に以下のように語っています。

振り返ると私が内閣総理大臣の職にありましたとき、財政の健全化を急ぐあまりに、財政再建のタイミングを早まったことが原因となって経済低迷をもたらしたことは、心からお詫びをいたします。

そして、このしばらくの期間に、私の仲のよかった友人の中にも、自分の経営していた企業が倒れ、姿を見せてくれなくなった友人も出ました。予期しないリストラにあい、職を失った友人もあります。こうしたことを考えるとき、もっと多くの方々がそういう苦しみをしておられる。本当に心の中に痛みを感じます。


現在、震災復興資金の財源をめぐって「復興増税」を主張する声が上がっていますが、現時点での増税は、需要の冷え込みによる景気のさらなる悪化、一層のデフレを招くでしょう。景気悪化は税収低下を通じ、国家財政に大きなダメージを与えることになるのは、今回の試算結果を見れば明らかではないでしょうか。

財源の調達法としては、国債発行等、経済を萎縮させない手段があります。

「財政の健全化」を考えるのであるならば、国債発行等、経済を萎縮させない手段で財源を調達するべきでしょう。



数式等

今回の試算は、財務省「平成23年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」 を参考にしたものです(Octaveコードはこちら)。なお、今回の試算では、初期値として、名目GDP$Y_0$=475、利払費除く支出$C_0$=70.9、税収$I_0$=37.4、国債残高$B_0$=1030、をそれぞれ用いました。

以下、試算に用いた数式+αについて示します。
まず、時刻$t$での国債残高を$B_t$、利払い費を除いた政府支出を$C_t$、税収を$I_t$、長期名目金利を$i$と定義します。ここで、
  1. 長期金利$i$は一定である
  2. 財政赤字額は全額国債発行で補う
と仮定しましょう。以上のもとで、時刻$t-1$から時刻$t$に進んだ際の国債の増加額$B_t - B_{t-1}$(=時刻$t$での財政赤字額)を、以下のように表します。
\[
B_t - B_{t-1} = iB_{t-1} + C_t - I_t
\tag{1}
\]
つまり、「[国債増加額] = [利払い費$iB_{t-1}$]+[利払い費除く支出]-[税収]」ということです。ちなみに、プライマリーバランスは
\[
I_t - C_t
\]
となります。

ここで、
  1. 消費者物価指数(CPI)変化率:$\pi$
  2. 名目GDP成長率:$g$
  3. 税収弾性値:$\alpha$
と定義します。簡単化のため、これらの値は時刻$t$に関わらず一定としておきます。また、財務省の想定にならって、「利払い費を除く支出が、CPI変化率と連動して上昇する」と仮定します。すると、国債の増加額$B_t - B_{t-1}$は以下のように表すことができます。
\begin{align*}
B_t - B_{t-1} = iB_{t-1} + C_0 (1+\pi)^t - I_0 (1+\alpha g)^t
\tag{2}
\end{align*}
また、プライマリーバランスは
\[
I_0 (1+\alpha g)^t - C_0 (1+\pi)^t
\tag{3}
\]
となります。

$B_0$を初期値とした$B_t$の値は、以下のようになります。

\begin{align*}
B_t & = B_0 (1+i)^t + C_0 \sum_{T=1}^{t}[(1+i)^{t-T} (1+\pi)^T] - I_0 \sum_{T=1}^{t} [ (1+i)^{t-T} (1+\alpha g ) ^T] \\
& = (1+i)^t \left[ B_0 + C_0 \sum_{T=1}^{t} \left(\frac{1+\pi}{1+i} \right)^T - I_0 \sum_{T=1}^{t} \left( \frac{1+\alpha g }{1+i} \right) ^T \right]
\tag{4}
\end{align*}

名目GDPを$Y_t=(1 + g )^t Y_0$と定義して、「国債残高/名目GDP比率:$B_t/Y_t$」を求めてみましょう。

\begin{align}
\frac{B_t}{Y_t} & = \frac{1}{Y_t} (1+i)^t \left[ B_0 + C_0 \sum_{T=1}^{t} \left(\frac{1+\pi}{1+i} \right)^T - I_0 \sum_{T=1}^{t} \left( \frac{1+\alpha g }{1+i} \right) ^T \right] \\
& = \frac{1}{Y_0} \left( \frac{1+i}{1+g} \right) ^t \left[ B_0 + C_0 \sum_{T=1}^{t} \left(\frac{1+\pi}{1+i} \right)^T - I_0 \sum_{T=1}^{t} \left( \frac{1+\alpha g }{1+i} \right) ^T \right]
\tag{5}
\end{align}

以上、「プライマリーバランス$I_t-C_t$(式(3))の黒字化」や「国債残高/GDP比率$B_t/Y_t$(式(5))を発散させない」ためには、「名目成長率$g$が高いことが重要である」ことがわかります。

実のところ「$\alpha g > 0$,かつ$\alpha g > \pi$である限り、国債残高/名目GDP比率は"いつかは"減少していく」のですが、現状は債務残高$B_t$(1000兆円規模)が税収$I_t$(2010年度37.4兆)に比べて非常に大きいため、「名目成長率があまりに低いと、減少局面に入る前に、粗債務残高/GDP比率が非常に大きくなる」ことになります。それは上記グラフが示しているとおりです。
また、同様の理由で、「経済成長率が上がって金利も上昇した場合、一時的に金利支払の増加が税収増加額を上回る」事態も起こります。これは一時的なもので、しばらくすれば税収の増加、プライマリーバランスの黒字化がみられ、粗債務残高/GDP比率も低下していくことは、上記グラフが示しているとおりです。

以上から言えるのは、
  • 財政を健全化したいなら、名目成長率を上げるべきである。
  • 名目成長率を引き下げるような政策の実行は、財政の悪化をもたらす
ということです。

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