2011年6月6日月曜日

円/ドルレート・実測値と白川[1979]の手法による推定値

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白川方明日銀総裁のかつての論文に、白川[1979]があります。この論文では、1973年から1978年までの為替レートについて、マネタリーアプローチで充分説明できる、としています。さて、これは現在もその通りなのでしょうか?2003年4月から2011年3月までの月次データを用いて確かめてみましょう。

マネタリーアプローチとは、為替レートの動きについて、通貨量・実質所得・名目金利で説明しようという理論です。今回はFRBおよび日本銀行の月次データを用います。ただ、日米の実質所得は月次データが取れないので、白川[1979]にならって鉱工業生産指数(米:FRB、日:経済産業省)を代用変数として用います。

推定

早速OLS推定してみます(理論は後述)。
推定式:
\[
\log_e{S} = \alpha_0 + \alpha_1 \log_e {\frac{M2_{JP}}{M2_{US}}} + \alpha_2 i_{JP}+ \alpha_3 i_{US}+ \alpha_4 \log_e{ \frac{IP_{US}}{IP_{JP}}}
\tag{1}\]
ただし、各変数の意味は以下のとおりです。
  • $S$:円/ドル名目為替レート(1ドル当たり円)
  • $M2_{**}$:マネーストック(M2)
  • $i_{JP}$:預金金利(日本、3~6ヶ月定期)
  • $i_{US}$:預金金利(米国、ユーロダラー3ヶ月)
  • $IP_{**}$:鉱工業生産指数
※データは2003年4月~2011年3月の月次データ(96ヶ月分)です。

結果









定数項log(jpM2/usM2)jp金利us金利log(usIP/jpIP)
推定値−2.07811.43540.31820.01470.2736
標準誤差0.40720.08800.03780.00330.0801
t値−5.103516.31018.41194.4003−3.4178
Pr(>t)0.00000.00000.00000.00000.0009
自由度調整済決定係数:0.9096

データはこちら(Google Spredsheet)

上記表の各係数を見ると、
  • 日本の通貨量がアメリカの通貨量と比べて少なくなる時、円高になる
  • 日本の通貨量がアメリカの通貨量と比べて多くなる時、円安になる
  • 日本の生産量がアメリカの生産量と比べて多くなるとき、円高になる
  • 日本の金利が上昇するとき、円安になる(※)
ということがわかります。これは白川[1979]の結果と同じであり、「日本の通貨量がアメリカの通貨量と比べて少なくなる時(つまり日銀がFRBよりも金融政策を引き締めた場合)、円高になる」というのは現況を表していると言えるでしょう。
(※「日本の金利が上昇するとき、円安になる」というのは、"何らかの理由(たとえば予想インフレ率の上昇)により名目金利が上昇したとすると、国内通貨への需要が減少し通貨の超過供給が発生して国内通貨は上昇するが、フロート制下ではこれは対外的には自国通貨の為替レート下落という形をとってあらわれる"(白川[1979])ためです)

なお以下の図は、実際の数値と上の推定値をプロットしたものです。


理論※白川[1979]を参照ください

貨幣量を$M$、物価水準を$P$、実質所得を$y$、名目金利を$i$、貨幣需要函数を$L(\cdot)$とおくと、これらは均衡点において、通貨受給の均衡式
\[
M=P \cdot L( y,i )
\tag{2}
\]
を満たします。

ここで、日本と外国(変数に"*"を付ける)の間に購買力平価
\[P = P^* S
\tag{3}\]
が成り立っているとします。なお、$S$は名目円/ドル為替レート(1ドル当たり円)です。

すると、式(2)、(3)から
\[S = \frac{P}{P^*} = \frac{M}{M^*} \cdot \frac{L^*(y^*,i^*)}{L(y,i)}
\tag{4}\]
となります。

両辺対数を取って、
\[
\log{S} = \log{\frac{P}{P^*}}
= \log{\frac{M}{M^*}} + \log {L^*(y^*,i^*)} - \log{L(y,i)}.
\tag{5}
\]

ここで、白川[1979]にならって、実質貨幣残高を
\[
\log{\frac{M}{P}} = \log {L(y,i)} = \eta_y \log y - \epsilon i
\tag{6}
\]
とします。なお、$\eta$は通貨需要の実質所得弾力性、$i$は通貨需要の名目金利に関するsemi-elasticityです。

ここで式(5)(6)から、
\[
\log S = \log{\frac{M}{M^*}} + \eta^*_{y^*} \log y^* - \epsilon^* i^* - \eta_y \log y + \epsilon i
\tag{7}
\]
となります。
日米の実質所得は月次データが取れないので、白川[1979]にならって鉱工業生産指数を代用変数として用います。
この式が現実をよく説明しているかどうか、データで確認します。ただし、データでは日米の鉱工業生産指数は高い相関があり(相関係数0.903)、式(7)のままで回帰すると不都合が出てしまいます。そのため、式(7)を

\[
\log S = \log{\frac{M}{M^*}} + \beta \log \frac{y^*}{y} - \epsilon^* i^* + \epsilon i
\tag{8}
\]
として、式(1)で回帰分析を行いました。

参考

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