名目GDP成長率のトレンドを見ると、1984-90年では6%だった一方、90年代以降は0.12%と、ほぼゼロ成長となっている。仮に1992年以降も名目GDPが6%成長が続いた状態と比較すれば、日本は92年以来、GDPの総額は 約6800兆円も損をしていることになる。日本人口を1.2億人とすれば、一人当たりで約5700万円のGDP(=所得)が失われた計算になる。
まず、下の2枚のグラフを見てほしい。
上の2枚のグラフは、両方共日本の名目GDPをプロットしたものだ。異なる点は、
1枚目が1984年-1990年のトレンド線(成長率6%)を載せている(赤いライン)のに対して
2枚目は1990年以降のトレンド線(成長率0.12%)を載せている(同上)点である。
(上の図はMonetary Freedom: Money Expenditures in Japanから転載した。日本語による紹介は明暗:日本の名目GDPトレンドを参照のこと。)
(なお、徒然なる数学な日々: 雇用者一人当たりのGDPに回帰線を書いてみたでは、雇用者一人当たりGDPに関して同様のグラフがある。)
1枚目のグラフの右端(2009年末)を見てみよう。90年以降も6%成長が続いた場合の推計値は約1350兆、実際のデータは約500兆であることが読み取れる。これらの差が2009年に失われたGDPとなる。計算すると、1350 - 500 = 850.
つまり、1984年-1990年の経済成長率を維持できていた場合との比較で、約850兆円もの名目GDP(=名目総所得)が、2009年に日本から失われたことがわかる。
さて、1984年-1990年の6%成長からゼロ成長になったことによって、90年代以降失われた名目GDPの総額は、1枚目のグラフの赤いラインと青いライン(または2枚目のグラフの赤いライン)との間の面積になるわけだが、どのくらいの額面になるだろうか。計算してみよう。
計算を簡単にするために、1枚目のグラフの赤いラインと、2枚目のグラフの赤いラインとの間の面積を計算することにしよう。そのためにはまず、1枚目のグラフの赤いラインと、2枚目のグラフの赤いラインを表す式を出すことが必要になる。
グラフを見ると、1枚目の赤いラインと2枚目の赤いラインは共に1992年の実際のデータ(青いライン)上にあるように見える。1枚目の赤いラインが実際のデータから離れるのは93年以降のようだ。よってここでは、1992年を基準年として、[年率6%で成長したときのGDP(1枚目の赤ライン)]と[年率0.12%で成長したときのGDP(2枚目の赤ライン)] の式を表すことにしよう。
以上から、失われた名目GDPの総額ー1枚目のグラフの赤いラインと、2枚目のグラフの赤いラインとの間の面積ーを計算するには、[年率6%で成長したときのGDP]から、[年率0.12%で成長したときのGDP]を引いたものを、時間で積分すればいいことがわかる。
計算結果だけを示す(計算式は後述)と、1枚目のグラフの赤いラインと、2枚目のグラフの赤いラインとの間の面積は、約6800兆、となる。
すなわち、1992年から2010年にかけて、総額 約6800兆円 (日本国民を1.2億人とすれば、一人当り約5700万) もの名目GDP(=名目総所得)が、日本から失われたというわけだ。
参考:上記の計算は1992年以降の名目GDP成長率を6%として行っている。試しに6%から1%までの各数値(1%刻み)について計算すると、失われた名目GDPは下表のようになる。
成長率(r) | 失われたGDP(兆円) | 一人当り額面(万円) |
---|---|---|
6% | 6809 | 5674 |
5% | 5627 | 4389 |
4% | 3911 | 3259 |
3% | 2716 | 2264 |
2% | 1662 | 1385 |
1% | 731 | 609 |
参考
徒然なる数学な日々: 雇用者一人当たりのGDPに回帰線を書いてみた
道草: 日本の名目GDPトレンド
Monetary Freedom: Money Expenditures in Japan
計算式:
r:名目GDP成長率
t:時間 (年数、1992年=0)
A:1992年(t=0)の名目GDP
とし、t年時点での名目GDPを以下のように表す。t:時間 (年数、1992年=0)
A:1992年(t=0)の名目GDP
Aert
また、実際の名目GDP成長率をnとおくと、成長率がrだった場合と比較して t 年に被った損失は、
[毎年(r*100)%ずつ成長したときt年のGDP] - [実際の成長率(n)でのt年のGDP]
で表せる。すなわち、
[t年目に失ったGDP] = Aert-Aent = A(ert-ent)
となる。
ここで、t=1からt年間、成長率がrだった場合と比較して被った損失、すなわち、失われたGDPを求めるには、上の式を時間 t で積分すればいい。すなわち、
[t年間で失われたGDP]=
∫0t [ A(erτ - enτ )] dτ = A [erτ/r - enτ/n ]0t
=A [(ert - 1)/r - (ent - 1)/n] ・・・(1)
∫0t [ A(erτ - enτ )] dτ = A [erτ/r - enτ/n ]0t
=A [(ert - 1)/r - (ent - 1)/n] ・・・(1)
となる。いま求めたいのは1992-2010年で失ったGDPの総額なので、以下の数値を代入する。
すると、
479.0* [(e0.06*18 - 1) / 0.06 - (e0.0012*17 - 1) / 0.0012] = 6809.233
となるから、1992年から2010年で日本が失ったGDPは、総額6800兆円となる。
*1IMF World Economic Outlook, October 2010
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